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山の動く日、来る!【コラム】

2026.5.1

7年間動かなかったテントが、新規事業へと転換。

小倉南区役所、その後の防災アクション+αとの連携により、

九州鉄道機器製造株式会社は新たな事業の柱を見出しました。

会社名九州鉄道機器製造株式会社
創立大正10年8月
所在地福岡県北九州市門司区下二十町2番30号
代表取締役大野浩司
事業内容分岐器各種の製造、レール加工、レール溶接工事、トンネル用H形支保工、 道路照明器具販売、鉄道車両部品販売、セラ水、不動産賃貸業

一本の電話が、企業の未来を動かした7年間動かなかったテントが新事業の分岐となる

あの、すみません。御社のテントを隣の店舗さんから拝見し電話しています。お訊ねしたいことがあるのですが、ご担当者さんお願いします。

あ、ははい・・。少々お待ちください。予想以上の永い保留音の後で「後日お電話します」とのこと。

老舗企業を相手にお構いなしの電話主。素性がわからない掛け手に「本気で対応して大丈夫なのか?」と慎重な受け手。2024年、この1本の電話がきっかけで、九州鉄道機器製造株式会社(以後略:九鉄)は新規事業の糸口をつかんだ。7年間動かなかったテントが、新規事業へと転換した。

門司の地で鉄道事業をはじめて100余年。鉄道に関するあらゆる製品を製造し、インフラに貢献してきた。ひと・モノ・社会に真摯に向き合い、社名に鉄道を有している。レールの上を確実に進むことを常としてきた。今まではこれでよかったけれど、この先は・・・。人口減や受注予測を思うと、未来への取り組みは急がれた。なかでも、トンネルの内枠を担う「※支保工(しほこう)」の部門は切実で、新規事業のアイデアに煮詰まっていた。社内で繰り返し会議を行っても、回答が見えない日々。そんな時に前述の電話が入る。「ひとまず、鎌田(課長)から電話してみて。怪しかったらそれまで」と大野社長。折り返しの電話は1週間後。小倉南区役所のコミュニティ支援課 係長(当時:井上氏)と掛け手が訪ねてきた。

大野:「訊ねられたモノは、屋外放置のサンプルテントなんですよ。7年前に赤が目立つからいいよとアドバイスを受けて置いたものの、まったく問い合わせが入らない。HPにも記載していないので、最初の電話に出た三浦の驚きようは今でも思い出します。初面談の時に井上係長と同行者から『ペット防災に活用できるといいですよね~』とのコメントがあり、防災?ペット?考えたこともない方向からの言葉に考えが追い付かずにいました」

大野:「最初の打合せの中で『備えない防災』という考え方と商品・製品・サービスの在り方を知りました。弊社の支保工の技術が活かせる。平時と災害時の境目をなくすことができる。多目的な活用で社会に貢献できる。日頃使っているものが災害時に応用できるという点に活路と商機を見出しました。プロダクトとマーケット、それぞれの声を反映した製品づくりができるんです。新規事業に向かうチャレンジのスイッチが、赤いテントとは。新規事業の種は、まさかの社内にありました(笑)」


屋外放置という環境が、結果的に製品の耐久性を証明していた。あらためて赤いテントに触れてみた。破れも歪みもない。7年間の時間は無駄ではなかった。テントなりの応答なのか突端部分に光が差し込んだ。

※「支保工(しほこう)」とは、トンネル掘削時にH型綱をアーチ状に曲げトンネル内部の崩落を防ぐ仮設構造物をいいます。

無茶ぶりは続くよ、どこまでも。小倉南区 防災アクション+αの会長?!

後日、小倉南区役所から同年11月の小倉南区総合防災訓練への誘いがある。その時のテーマは、防災アクション+αの礎となる『備えない防災』。『備えない防災』とは、いつも使っているモノやサービスを、もしもの時にも役立てる、防災啓発の新しいアプローチ。企業の技術を社会実装するための仕組みを整えている。企業にとっては、自社の技術やサービスを社会課題と接続し、新たな事業機会を創出する機会の一つとなっている。防災=備えると対照的に思われがちだが、アプローチの方法が異なるだけで、防災啓発という目的は一緒だ。一般的に馴染みの少ない言葉を小倉南区の総合防災訓練からスタート・定着させるということだった。

九鉄は、いつもは駐輪場、もしもの時はペット防災用に活用できるテントで出展を決めた。まぁまぁ、時間がない。主催の小倉南区役所に正式に出展の話をしたのは約1カ月前。区役所含めた関係者は既存の赤いテントが持ち込まれるとばかり思っていた。

大野:「出展するからには、良いものをと取り組みました。ペット防災啓発に取り組んでいるNPO法人ALLOKさんと話し合いの機会を持ち、製品を完成させ当日を迎えました。ユニック車に載った初製品の「白いテント」を訓練会場の企業ブースに配置した時は、ちょっとした撮影会になりましたよ」

小倉南区総合防災訓練時の企業・団体側ブースには、業種・業態の異なる人たちとの会話と接点を持つことができた。『備えない防災』をフックに市民や飼い主さんから求められているニーズを聞くこともできた。今までにない新鮮な感情とともに、支保工チームの達成感に値するイキイキとした表情に助けられた。訓練後の会合の席は、弊社と同じ気持ちでいた人が複数いた。年に1回の集まりに留まるのはもったいないとの声があがり、『備えない防災』をあらゆる軸とする防災アクション+αがスタートする。会合の席で推薦され九鉄の大野社長は代表の任に着いた。

大野:「あの当時も今もほとんど変わりませんが。防災アクション+αはほんと、勢いで動いています(笑)よし、やろう!と決まってからの熱量が合わさると、それこそプラスアルファな効果が生まれています。官民の知見、立場を超えての話し合い。実践的な「共助」を日頃から続けています。無理なく、首尾よく、ほどよくという点も参加団体・企業に受け入れられる要素なのかもしれません。これは捉え方の一つになりますが、防災アクション+αは新しい防災情報を官民から収集し、対応力の機会を確認する場と思っています。おかげさまでスカウトやインスタからのDMや問い合わせが進み、現在は県内外含めて、加盟団体・企業・キッチンカーの総数が41になりました」

特定日だけの防災訓練や顔合わせでは得られない、継続した防災啓発。『備えない防災』をアイコトバに垣根を超えた防災アクション+αの環が広がっている。

想像もしてなかった縁と景色が。EXPO出展、大学共創、獣医師との連携へと広がった

防災アクション+αを隔月で!というサイクルを計画し、2024年12月から2カ月弱でプレイベントを実施。第1回目の2026年4月15日には、プレイベントの効果もあって各種メディアからも注目された。年6回実施の予定が、蓋を開けたら1年間で12回を重ねる露出度になっていた。

時間は前後するが、2025年3月の声を聞いた時に小倉南区役所が防災アクション+αの名で課題解決EXPOにエントリーした。企業向けのアプローチも進めようということで、参加企業の中のメーカー陣に声をかけて、九鉄の他2社がタッグを組んだ。

大野:「災害時にも活用できるテント(シェルター)の開発内容よりも、弊社が取り組む新規事業そのものに関心が高まっていました。例年7月に北九州市で行われる課題解決EXPOは勉強の場。今まではお取引様へのご挨拶、他社様の事例や技術を学びに行くところであったのに、まさか弊社が行政(小倉南区役所)を通して防災アクション+αとして出展するとは夢にも思いませんでした」

出展を機に、新規事業を通して見えるものが広がった。長いお付き合いのある方、わざわざ足を運んでくださった方、興味を持って細部を見回す専門家や学生の皆さん。出展して得た情報は限りなく大きいと感じた。あわせて、営業につながるエビデンスが少ない状態での出展は課題(宿題)として残った。しかし、企業の技術を社会価値に変換する仕組みをアピールするには、絶好の3日間となった。

大野:「これもまた不思議なぐらいの偶然なのですが、旧知の仲である後輩が大学教授としてEXPO会場を回っていたんです。後日、お互いの近況を話し、日を置かずに産学連携を交わすことになりました。研究課題との親和性、弊社エビデンスへの協力の申し出、大学生からのアイデアの創出・提案。既存事業にない新しい環境が生まれました」

同タイミングと近いところで、小倉南区役所と「防災啓発」協定を結ぶことに。一気に九鉄が防災アクション+αの中心メンバーであることが認定・確立された。そして、これは偶然なのか縁なのか。迷いネコが大野社長の車のボンネットの中に。どこで迷いこんだのか不明だが、一時期は社内で飼育することになった。

大野:「ペット防災で繋がりを持てた獣医師の関先生や関連機関がすぐさま支援してくださって、手厚い保護ができました。おかげさまで災害対応に強い獣医師(VMAT)の先生方との交流も進みました。迷いネコちゃんは、その後社員の家猫ちゃんになっています。ある意味、招き猫でしたね」

小さな1歩でも行動することで、出会えた奇跡と軌跡。転換点はきっと近くにある。視座を変えただけで、1年の景色は彩りを増した。

新規事業はいよいよ起点から基点へ。防災アクション+αとともに企業価値の向上に挑む

新規事業のテント(シェルター)は、九鉄の新しい柱になるべく、防災を兼ねる製品を選択した。製品の付加価値を高め、確かな需要に応えようと生みの苦しみを決めて日々試行錯誤を繰り返している。支保工部門らしい表現になるが、長いトンネルに入り、出口に向かって0→1の過程を進んでいる。詳細な様子は、是非とも九鉄のHPやSNSでご覧いただきたい。

大野:「北九州市は比較的災害が少ない街。他所の地域に比べて防災に対する備えと意識が向けられていない現状を行政から拝聴しています。少し前の弊社の立ち位置が重なりました。自分たちは大丈夫という癖(バイアス)も大きいと感じています。モノづくりだけでなくヒトづくりも大切にしていきたいですね」

大野:「自分には関係ないという思い込みを取り除くような啓発行動に努めていくことも大事にしていこうと思っています。気象だけでなく、パンデミックや物流など企業が持続していくためには、BCP体制の拡充も急がれます。産学官が連携してタッグを組んでいる好事例が弊社の新規事業であり、防災アクション+αであることを、令和8年度はもっとアピールしていきますよ。

私自身、もしもの時に活用できる製品や商品を開発する企業として、もしもの時にも使える物を選ぶという考え方を持つようにしました。私と支保工グループが『備えない防災』に注力していますが、今後は弊社の社員一丸となって、啓蒙を進めていきたいと思っています」

これから何社かの取材を終えた時、きっと九鉄の新規事業のフェーズが変わるだろう。災害時にも役立つ支保工技術を生かした新製品の登場が待ち遠しい。防災アクション+αに関してもしかり。行動した者のみが感じられるプラスアルファの副産物は、『備えない防災』を軸とした価値変容と多方面の気付き。

課題に防災を足し、そして描けた答えは、少し先の社会に基点として受け入れられると信じている。 九鉄だけでなく、世の中の企業技術も、まだ見ぬ価値に変えられるかもしれない。その一歩は、すでに身近にある。防災アクション+αは、その一歩を具体的に形にする実践の場である。

構成・取材:株式会社spoon
撮影・編集:ヤマノウチデザイン株式会社

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